ココロのカケラ

あの子のいた軌跡

水曜日

年末は役所など仕事おさめにはいってしまう
まだすることは あるけれど いったんは家に戻らなければ…
下の子を預けっぱなしでは 義母さんにも負担が大きい


遺骨をタオルでくるんでチェックアウト
雪が降ってるのでつい濡れないよう背を丸める


「さあ、お父さんとお母さんの 新しいうちにいこうね。」


まだ引っ越してから 来たことがないから なんだか「帰ろうね」と言いたくても言えない
高速に乗ってほどなくして あの子のでた大学の近くを通る
この界隈で 学生時代を過ごしたのか…


ちっとも帰って来なかったから それなりに充実していたんだろうか…
もっと 話したかった でも できなかった
原因は わたしにある
頑張りきれなかった わたしが悪い


私達は きっと いびつで 歪んでいるのだろう
けれど 自分以外に なったことがないから それに気がつけなかった
失敗して 失って 今頃わかっても もうおそい
いや わたしは うすうす気がついていた でも 自信が無くなって 勇気が出なかった
だから 「きっとそのうちに…」などという まわりの人の言葉に依存した
なんとしてでも どうにかするべきだったのに
わたしは 逃げたんだ
だから あのこは 死んでしまった
一人ぼっちで 死んでしまった



夫がラジオを聴いている
あの子はドライブの時は DSばかりしてたから
前をむいていれば 以前とは変わらない風景
けれど ルームミラーに移りこむ あの子の影はもうない…

1月5日

下の子の通所開始日だ
けれども 明日はあの子の法要をして その後3日間片付けに行かなくては…
だから 来週の火曜日までまた休ませることになる


こういう時 夫の実家には随分と世話になってきたものだと思う
あの子に関しても随分と 偏見なく助けてもらっていると思う


なのにこんなことになってしまって 自分のふがいなさを悔しく思ったり
あの時こうすればだの あの人がこうしてくれればだの 今更どうしようもない事を考えてしまう自分がいる
…愚かな事だ……

火曜日

あの子の部屋の管理会社へ向かう
不慣れな田舎者夫婦に この街は大きくて スマホアプリにされるがままだ


口コミどおりのロビーで 呼び出しにも戸惑いながら
それでも 出てきた担当者に 必要事項を聞いている


話の感じは 悪くはないけれど 何か聞き漏らしなどないか それと
これからは 未知数なものもあるのかもしれない語感が気にかかる


管理会社のあとは 葬儀会社に 清掃おたき上げの下見の依頼だ
「正直このくらいの荷物量なら ご遺族がなさっても…」
と言われるが この季節 そうそう何度も来たくてもこられない
それに この街の不用品処理のルールも何も知らないのだ
事情を話して お願いする


それが終わると区役所だ 
お世話になったであろう人は前任者が一人いて 書類を出してそれでおわり



どんどん あの子の存在を消していく作業
まだまだ こまごまと する事はつづく


ホテルにもどり コンビニで買ったおにぎりを食べる
テーブルに あの子の分も並べて座る


3にんで 温泉に小さいころ来たっけね
浴衣を着せて いっしょに寝たね
大きなお風呂や 泡ブクブクで遊んだり 馬の形の浮輪に乗ったり…


いまは ただ テレビだけが なにか鳴っている…